南アフリカ放牧地回復プロジェクト

アフリカの人々の生活の舞台となる放牧地を守るために


コミュニティ主導で地域の生態系サービスを回復させる

 

「レンジランド(Rangeland)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、その意味は広く、草原や牧草地、灌木地、サバンナ、ツンドラの植生などを指し、実は、地球の表面の半分以上はレンジランドで構成されていると言われています。アフリカでは、草原やサバンナ、牧草地、と言えばイメージが湧くのではないでしょうか。

南アフリカの国土は、約80%がこのレンジランドで覆われています。レンジランドには様々な植生や動物が共生して、貴重な生態系を構築しています。アフリカの人々は長年レンジランドから食料や水、燃料、薬草、家畜の飼料などを恩恵を受けてきました。また、レンジランドはその豊かな土壌や植生が気候調節や自然災害緩和の重要な役割も担ってきました。まさに、レンジランドはアフリカの人々の生活を支える舞台そのものなのです。

しかし、近年過放牧や開発などによりレンジランドの健全性が損なわれ、食糧不足や水資源の枯渇、自然災害の被害拡大、野生生物の生息地減少など、様々な負の影響に繋がっています。さらに、健全なレンジランドの土壌は二酸化炭素(CO2)の重要な吸収源でもあるため、レンジランドの非持続的な利用で、今後CO2吸収量の低下と土壌に蓄えられたCO2の大量排出に繋がる可能性が懸念されています。

そこで、プロジェクトでは、近年急速に人口が増加し、牧草地への圧力が高まっている東ケープ州北部において(地図)*、地域コミュニティと協力して、牧草地の保全に取り組みます(以下、プロジェクトの対象地は主に牧草地であることから、レンジランドを牧草地と置き換えて表記します)。地域の人々による持続的な放牧を支援し、牧草地の質が向上することで、地域の重要な水資源の維持・回復に繋がり、周辺地域の植生や動物にとってもプラスのサイクルが生まれることが期待されます。また、健全な牧草地の管理はCO2の吸収による地球温暖化対策にも欠かせない位置づけにもなっています。

 

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注)*この地域は重要なMaputaland-Pondoland-Albanyホットスポットにもあたり、絶滅が危惧される植物や動物が多く生息する場所でもあります。

 

気候変動対策への貢献

良質な水資源の供給

コミュニティの生活向上

牧草地の土壌は大気中の二酸化炭素を吸収する一方で、非持続的な利用によって牧草地が荒廃してしまうと、それまで土中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中へ放出されます。そのため、牧草地の適切な管理は、気候変動対策にも欠かせません。

プロジェクトでは、地域の人々が牧草地を持続的に活用しながら、生活の糧である放牧を行えるよう、保全計画作りから、実際の放牧活動まで様々なサポートを行っています。

 

牧草地の健全性は、土中の保水力を左右するため、地域の水供給にも大きな影響を持っています。プロジェクトサイトでは、水はすべての人、家畜、その他生き物の生命線であり、常に最重要視されてきました。

また、土中に水分が多く含まれることは、洪水や干ばつの影響を緩和し、森林火災を防ぎ、気温の安定にも貢献するなど、地域のレジリエンス力の向上にも繋がります。

プロジェクトでは、適切な牧草地の管理を通して、地域の水の安全保障にも取り組みます。

 

この地域に暮らす人々の多くは、放牧で生計を立てています。そのためコミュニティ全体でより持続的となる放牧の在り方を模索することが、健全な牧草地づくりに大きく貢献します。

プロジェクトでは、一定の期間牧草地を休ませ、草地の回復を図る方法を取り入れたり、持続的な方法で飼育されている家畜に関して、マーケットへのアクセス支援を行うなど、コミュニティの生計向上と持続的な牧草地の利用が両立する取り組みを目指しています。

また、活動を通して、対象地域で社会的に立場の弱い若者や女性に配慮したアプローチも取り入れます。