アジア初!気候変動に配慮した気候スマートエビ養殖が大成功を収める
6月 15, 2025
インドネシア中央スラウェシ州ドンガラ県ラロンビ村における、気候スマートエビ養殖※1(Climate Smart Shrimp:CSS)手法によるエビ養殖池にて、初めての収穫が実施されました。6月10日から12日にかけて行われた収穫では、3日間で50トン以上という、期待を上回る結果となりました。この成功は、テクノロジー、環境保全、そしてブルー・フード(持続可能な水産資源)という食料安全保障を統合した持続可能なエビ養殖モデルの構築に向けた重要な一歩です。
コンサベーション・インターナショナルのインドネシア法人である、コンサバシ・インドネシア(Konservasi Indonesia)が主導するCSS手法は、マングローブ林の減少や持続不可能な養殖によって引き起こされる気候変動や環境悪化といった課題に対応しつつ、エビ養殖の生産性を高めることを目的にしたものです。
CSSは、沿岸生態系に対する気候変動の影響、特にマングローブ林の転換や有害な養殖方法による影響を緩和するための解決策です。このモデルは、廃水処理技術、持続可能な養殖手法、そして自然のバイオフィルターとしてのマングローブ再生を組み合わせたものです。その結果、エビの生産量を向上させながら、沿岸生態系を保全する、バランスの取れたアプローチとなっています。
また、持続可能な水産物食料安全保障を支えるうえで、マングローブ再生が持つ高い炭素吸収能力の重要性も見逃せません。ラロンビ地域のエビ養殖場周辺では、再生されたマングローブ林が年間1ヘクタールあたり最大7.4トンの炭素を吸収すると推定されています。1ヘクタールあたり500トンから1,083トンの炭素貯蔵が見込まれることから、3.5ヘクタールのマングローブ林では、約3,700トンの炭素を貯蔵できる可能性があります。
マングローブ生態系は、生物多様性において極めて重要な役割を担っています。たとえばマングローブガニや様々な魚類の産卵・繁殖の場となり、これらの種は成長すると外洋へ移動します。マングローブに含まれるの栄養分は、これらの海洋生物にとって不可欠な食料源です。
プロジェクトパートナー、養殖技術スタートアップ「JALA」CEOアリョ・ウィリヤワン氏のコメント
「養殖場では、リアルタイムで水質を監視し、生産状況を管理するシステムが重要な役割を果たしています。ラロンビのCSS養殖場での初収穫は大成功であり、1ヘクタールあたり52トンの収穫は国内平均を大きく上回りました。エビは最適に成長し、1キロあたり最大24尾のサイズに達し、輸出品質基準を満たしました。これは、優れた養殖管理と国際市場での大きな可能性を示しています。このシステムは、気候変動、環境悪化、経済的不平等といった喫緊の課題に対して統合的に取り組むものです」
国立研究イノベーション庁(BRIN)のブルーカーボン研究者マリスカ・アストリッド氏のコメント
「沿岸生態系を保全する上で、自然を基盤とした解決策が重要です。BRINでは、養殖池およびマングローブ域の水質と炭素含有量を評価し、マングローブの自然ろ過機能を調査しました。初期観察では、従来の養殖池と比べて廃水の水質に明確な違いが見られました。従来の排水は、化学物質やリンの含有量が高く、泡立っていました。廃水処理システムと自然のマングローブの自然ろ過を経て、泡は消え、水は透明になり、海に放流しても安全な状態になりました」
この成功した初収穫は、テクノロジー、環境保全、そしてコミュニティの力を集結した統合的なアプローチが、ブルー・フードの食料安全保障と持続可能な経済発展に向けた実効的な解決策をもたらすことを証明しています。
※1 気候スマートエビ養殖(Climate Smart Shrimp: CSS) とは
従来の養殖が抱えていた課題を克服し、環境への負荷を抑えながら、持続可能な方法でエビの生産性と収益性を高める新しい養殖手法。マングローブなど、ブルーカーボン生態系の再生と地域社会の気候変動への適応を両立し、環境保全と経済発展を同時に実現する。
ラロンビにおける気候スマート型エビ養殖(Climate Smart Shrimp Farming:CSSF)について
<所在地>
- 中央スラウェシ州ドンガラ県南バナワラロンビ村
- エビ養殖池面積:2.5ヘクタール
- 水の流入・流出処理区域:4.8ヘクタール
- マングローブ林再生区域:3.5ヘクタール
<概要>
- コンサバシ・インドネシアとそのパートナーによる協働イニシアティブで、生態系再生戦略の策定、炭素排出量の算出、生態系の包括的な健全性モニタリングを推進している。
- CSSFはエビ養殖とマングローブ再生を統合し、生産性と沿岸生態系の保護を両立する。
- ラロンビのCSSFは、アジア初の気候変動に対応したエビ養殖のパイロットモデルである。
- コンサバシ・インドネシア、JALA(水産養殖テクノロジースタートアップ)、タドゥラコ大学、国立研究イノベーション庁(BRIN)が参加する多利害関係者間の連携プロジェクトである。
- このイノベーションの重要な使命の一つは、水質悪化と水生生態系の破壊を軽減することである。
- 総面積10ヘクタールのうち、6.5ヘクタールがエビ養殖池に、3.5ヘクタールがマングローブ再生と廃水処理施設に利用されるという、バランスの取れた土地利用設計を採用している。
- 3.5ヘクタールのマングローブ林再生地は、天然のバイオフィルターとして機能しながら、約3,700トンの炭素を貯蔵できる可能性がある。
- 従来の養殖方法での1サイクルあたり30トンと比較して、1ヘクタールあたり40トン以上のエビ生産を目指す。
- テクノロジーの活用により、水質、生産状況、サプライチェーンの透明性をリアルタイムで監視できる。
- タンバク・サリ・レスタリ協同組合やボネブラ財団といった地域の農業グループの参加により、生態系の回復と地域経済の発展の両立が進められている。
- CSSFは、インドネシアの他の沿岸地域でも再現可能なモデルとして期待され、ブルーエコノミーと食料安全保障の推進に貢献することが見込まれている。
- ラロンビにおけるCSSFのイノベーションは、日本を含む国際的な投資家からも関心を集めており、持続可能なエビ養殖システムへの支援意欲が高まっている。
コンサバシ・インドネシアについて
インドネシアの重要な生態系の持続可能な開発と保護を支援することを目的とした国内財団。各セクターや管轄区域を超えた多角的なパートナーシップの重要性を認識し、政府やその他の団体と協力し、気候変動に対する革新的な自然を基盤とした解決策を設計・実施している。持続可能な陸域・海域の統合的なアプローチによって、人びとと自然の双方に長期的な影響をもたらすことを目指す。www.konservasi-id.org