危機に瀕するマダガスカルの豊かな生物多様性保全のために
 
 

遠くアフリカにある魅惑的な国マダガスカルは、今でこそ爬虫類やキツネザルの専門家達の別天地となっていますが、かつては海賊や密輸業者、海洋貿易業者で知られた地域でした。まもなく、このマダガスカルは、モンスター映画「シュレック」を彷彿とさせる映画「マダガスカル」により、世界中の子供や大人たちに知られるようになるでしょう。CIにとってこれほど喜ばしいことはありません。

映画「マダガスカル」又は CIのホームページ(英語)を見れば、CIの最重要生物多様性ホットスポットに生息する、数多くの風変わりな地域固有の生き物について学ぶことができます。例えば、げっ歯動物のような門歯に幼虫を穴から引き出すための骨張った長い中指を持つキツネザルの一種アイアイ。機敏で主に地上で生活し、アライグマのような帯状模様の長い尾を持つワオキツネザルなどについてです。また、マングースの一種でマダガスカル最大の肉食獣であるフォッサは、足の短いピューマのようですが犬に似た鼻面をしています。今まで専門家だけに知られ、影の薄かったマダガスカルですが、今後はこれらの動物達が一般の皆様の大きな関心を、この素晴らしい地域に呼び寄せてくれることでしょう。


新たな展望

マダガスカルは、新しい指導者マーク・ラヴァルマナナ大統領が誕生した2002年以降、不安定な状態から抜け出し、近代国家の確立、さらには危機に瀕する豊かな生物多様性の保護に向けて力強い取り組みを行ってきました。2003年9月に南アフリカで開催された世界国立公園会議で、同大統領は今後5年間で保護区を3倍に拡大する意向を示しました。

同時にまた、この保護区拡大の実現のため、国際社会に対して5,000万ドルの資金援助を求めました。これに応えるべく、CIは直ちに様々な支援者と協力し、この2年間に3,000万ドルの支援確保に成功しました。この基金は、マダガスカル担当のCI副会長レオン・ラジャオベリナのもと、正式に設立されました。

ラヴァルマナナ大統領は様々な分野において市民社会改革、すなわち民主化や経済の自由化、さらに健康管理や道路整備、学校の整備に着手してきました。世界銀行マダガスカル代表のジェームス・ボンド氏は、「この国及び政府は自ら最大限効率的に機能している」、「大統領が中心となり、良いチームに囲まれて優れた成果を挙げている」と述べています。
我々CIは、地域コミュニティや他のNGO(地元、国内、海外)を含む様々なパートナーと協力し、映画公開で知名度が一気に高まるこの千載一遇の好機をとらえ、この国を手助けする準備をしています。
マダガスカル島とその生物多様性

アリゾナ州の2倍の面積を有し、世界第4位の大きさを誇る島マダガスカルは、世界の中でも最も重要なホットスポットであり、非常に多様性豊かな国家として認められてきました。アフリカ東海岸からわずか400km離れた所に位置するこの島は、1億6,000万年以上も前に古代ゴンドワナ大陸が分割される際、大陸から切り離された部分です。その結果、マダガスカルの動植物の大半は、長期に渡り孤立した環境のもとで独自に進化を遂げ、他の場所では見られない独特なものとなっています。

この島の生物多様性に関する特徴は、固有種の割合が非常に多く、また、特定の生物グループの中での種の多様性が豊かであることです。この特徴は、マダガスカルの植物や霊長類によく現れています。植物は少なくても12,000種が確認されており、推定14,000種から15,000種が生息すると見られていますが、そのうち約90%はこの島でしか見られません。さらに、マダガスカル固有の植物科が7つあり、他のホットスポットに比類ないものとなっています。

脊椎動物では約283種の鳥が記録されており、そのうちの209種がこの島で繁殖し、109種が固有種です。なかには、色が美しくてすばしっこいグランドローラーやカッコウローラー、クイナモドキなど、生きた化石ともいえる鳥がいます。

哺乳動物は少なくとも131種が生息し、そのうち30種はコウモリです。また、12種を除くすべてが固有種です。マダガスカルの霊長類はすべてキツネザルの仲間で、科や属レベルでの固有種は他に例をみないほど多く、5つの科と15の属が固有種となっています。合計では69分類が記録されており、今後、さらに増える可能性があります。霊長類の多様性はこの国の野生生物の大きな魅力であり、アイアイやインドリ(尾の短いキツネザル)、ネズミキツネザル(30gしかない世界最小の霊長類)など世界的にも貴重な生き物が存在しています。

固有の両生類と爬虫類はそれぞれ1科だけですが、その中には固有種が多く含まれています。爬虫類は340種のうち314種が固有種で、両生類は223種のうち、なんと221種が固有種です。その上、いくつかの種はマダガスカル起源であるとも言われています。例えば、世界にいるカメレオンの起源はマダガスカルであると最近提唱されました

マダガスカルにおける重要な両生類と爬虫類としては、キンイロマダガスカル属のトマトガエルが挙げられます。この蛙は、食用蛙ほどの大きさの鮮紅色の蛙で、マダガスカル北東部の極めて狭い地域に生息しています。カメレオンについては、約70種が確認されている他、毎年新種が発見されています。

マダガスカルでは、この10年ぐらいの間、特にCIがホットスポットに関する本を出版した1999年以降に、数多くの新種が発見されました。哺乳類は、この15年間で22種以上の新種・亜種が発見されました。この中には、1997年~2003年に発見されたキツネザル7種と、今年すでに発見された5種を含みます。さらに多くの新種が未確認の状態で残されており、少なくとも100種の爬虫類と約100種の両生類について、正式な報告が待たれます。これにより、マダガスカルと周辺諸島が地球にとってかけがえのない場所であることが再度証明され、最重要ホットスポットとしての役割が注目されます。


生物多様性への脅威

マダガスカル及びホットスポットに含まれる周辺のインド洋諸島における脅威については、多くの原因が指摘されています。焼畑農業、採鉱、伐採による森林破壊が動植物の生息地を破壊する主な要因です。残された森林はひどく散在しています。筆者は最近、マダガルカル各地を飛行してみましたが、保護活動に値する手付かずの自然が10%も残っているかどうか疑問に思いました。比較的健康な状態で残っている地域を、大統領主導の保護区3倍計画のもと、できる限り迅速に保護する必要があります。

最も被害が深刻なのは、低地の熱帯雨林、乾燥した落葉樹林、棘の木の多い森林などです。島の西部を上空から見下ろすと、森林の分断や、せいぜい2~3年間しか使用しない生産性の低い焼畑があちこちで行われていることにより、ひどく傷ついた森林を見ることができます。森林分断は、生物多様性を破壊し、いずれ人も住めなくなることを意味します。湖や川、沼地のある湿地帯は、水田への転換や土壌浸食による沈泥、外来生物の脅威に見舞われています。焼畑農業も大規模な土壌浸食の原因となっています。

キツネザルだけではなく、多くの哺乳類や鳥類の一部、そして海ガメ、陸ガメなどの爬虫類は、狩猟による影響を受け易い動物です。ペットや植物の取引は、地域固有の動植物、特に両生類や爬虫類、多肉植物に深刻な打撃を与えています。外来植物の急激な増加も大きな問題です。特に淡水の生態系は、南米原産のホテイアオイなどにより、深刻な影響を受けてきました。

さらに、マダガスカルには現代における野生生物の絶滅を示す良い例(と言うより、悪い例と言うべきかもしれませんが)が見られます。その原因のひとつとして、約2,000年~2,500年前に人類がこの地に移り住んでからずっと行われてきた狩猟が挙げられます。目立った絶滅種としては、エレファントバード(身長約3m、体重500kgに達する種もある)やカバ、巨大陸ガメ、ツチブタ、そして8属と15種以上のキツネザルがいます。絶滅したキツネザルは現代のものと比べると大型で、外見上は巨大なコアラの様なものや、大型のナマケモノのような動きをするもの、また雄ゴリラより大きなものも存在しました。

これらの中には、ほんの200~300年前まで生き残っていたと思われるものもありますが、地元住民以外には生きている姿を目撃した人はいません。最も大型の種から絶滅するという傾向から、現存するキツネザルの仲間では、絶滅危惧種であるペリエのシファカやシルキーシファカが、特に絶滅の可能性が高い種だと言えます。


進みつつある環境保全対策

幸いにも、この素晴らしい生物多様性ホットスポットは、新しい保護の時代を迎えつつあります。ラヴァルマナナ政府は、5年間の環境保護計画とともに、3期目の国家による環境行動計画に乗り出そうとしています。この取り組みには、多くの地元や国際的な環境保護団体(CI、世界自然保護基金(WWF)、世界保護協会、ダレル基金、ファナンビィが参加)に加え、世界銀行、地球環境ファシリティ、国連開発計画、及び米国、フランス、ドイツ、スイスの各政府が参加しています。

この極めて重要なホットスポットは、未だに多くの脅威にさらされているものの、近年の取り組みによって希望が見えてきました。マダガスカル内外からの多くの支援により、かつては環境を保護するには手遅れだとさえ思われたこの素晴らしい島が、生物多様性保護の世界的な模範へと急速に変わる可能性があるのです。

翻訳: 岡埜 河童 ・ 尾崎 友美 ・ 古川 顕