気候変動の影響が将来の保全費用を倍増させることが明らかに
 
 
国際研究チームが、このほど初めて気候変動の影響に対応した生物多様性の保全の費用を算出した。その結果、予測される気候変動を生物多様性戦略に「今」組み込むことで、将来掛かる保全のコストを削減することができることが明らかになった。

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201257(東京)
コンサベーション・インターナショナルが中心となる研究チームによると、気候変動の影響によって、生物の生息環境を保護して種の絶滅を防ぐことがより一層困難になり、保全に費用が倍増することもあることが明らかになりました。
 
本研究は、気候変動の影響による生物多様性の保全費用を初めて算出したものです。南アフリカ、マダガスカル、アメリカ・カリフォルニア州の3地域を対象にした研究結果が、それぞれ論文にまとめられ、“コンサベーション・バイオロジー”(Conservation Biology)誌へ掲載されました。
 
 生物多様性の保全は人間の生活を支える上で重要な役割を果たします。種と自然生態系は、人々に対して身近なところから世界全体まで様々なレベルで便益をもたらしています。食糧、水、薬を供給し、自然災害を防ぐほか、森林や湿地が温室効果ガスを吸収し、気候を安定化する役目も果たしています。
気候変動の影響によって、人気の動植物が絶滅してしまったとしたら、それらをもとに観光業で成り立っている経済が損害を受ける国も出てくるでしょう。
 
種の絶滅を防ぐ最も有効な方法のうちの一つは、生息環境を保護することですが、気候変動の影響により種の生息地の場所が変わっていくことを考えると、現在の生息地だけでなく、将来の生息地も保護しなければならなくなります。

「気候変動がもたらす影響は、南アフリカ、マダガスカル、カリフォルニアで異なります。しかし、気候変動の影響によって、必要となる保全の費用は3地域全てで大幅に増加することがわかりました。私たちの研究結果によって、温室効果ガスの排出を削減すること、保護地域を効果的に守ること、種の移動を考えて保護地域をつなぐこと、人々が気候変動の影響に適応していくための計画を支援することの重要性が再確認されました」と、CIの気候変動生物学専門の上席研究員、リー・ハンナ博士は言います。

マダガスカルは、世界でもっとも豊かな生態系を有しながら、その原生林の大部分が失われている国です。研究チームは、2000年から2080年の間で74の固有植物の分布域を予測しました。気候変動が進むにつれ、現在は生息地が保護されている種でも、将来的には保護されていない地域に移動したり、移動する先が無いという事態が起こることが示されました。例としてはマダガスカルの原生樹木、スコット・エリオットカプロン(学名:Rhopalocarpus coriaceus)が挙げられます。

さらに、このような種の絶滅を避けるために森林を回復することは、現存する森林を出来る限りそのままの状態で残すことよりも、遥かに費用がかかり、困難であることが結論付けられました。
 
「気候変動からマダガスカルにある多くの唯一無二の種を保護するために最優先すべきことは、進行する森林破壊を食い止めることです。マダガスカルの森に生息する動植物を守ることで、命を守る薬の原料や農業に必要な水を守り、観光業を営むこともできるのです」と、CIの気候変動および森林経済担当科学者であり、マダガスカルの研究の主筆であるジョナ・ブッシュ博士は言います。

カリフォルニアでは、研究者たちはハミルトン山付近に生息する11種を選び、2050年から2100年の間で、「土地の購入」と「土地および種の管理」という二つの戦略に沿ってそれらの種を保全する場合の費用を算出しました。その結果、気候変動の影響がある中、保全目標を達成するためにはハミルトン山の保護区の境界線は、劇的に拡大されなければならないことが明らかになりました。気候変動がおこらない場合との比較において、それらの目標を達成するためにかかる保全費用は、2050年時点で150%増加、2100年時点では220%の増加が想定されます。
 
南アフリカでは、生物多様性ホットスポットの一つ「ケープ植物相地域」で、3つのオプションに沿って、固有のヤマモガシ科植物316種類を守るための費用を算出しました。

◎オプション1…土地を購入することによって、保護区を拡大する方法

◎オプション2…土地を手付かずの状態で維持するため、地主と保全契約を締結し、生産や開発の機会への対価を支払うことで保護区を拡大する方法

◎オプション3…地主に対価を払うことなしに、契約を交わし保護区を拡大する方法

最も高価で効果的な方法は、オプション1の土地を購入し、宅地や農業などへの土地利用転換を防ぐことです。一方、最も安くて、効果も低いのはオプション3の対価のない地主との契約です。
気候変動に対し、回復力を保つよう、ケープ植物相地域の種の保全に必要な生息環境を守るには、26000万米ドル~10億米ドルが必要です。
 
「将来世代に何を残し、何を今開発するか。バランスについて、緊急の選択が必要です。例えば、次の数十年間、ケープ植物相地域の生物種の生存率を高めるためには、政府が前例のない投資をしないと、個人の土地所有者への莫大な経済的収入の損失が起こるでしょう。これらの研究で開発された経済ツールと費用対効果のプライオリティが、人々の関心を高め、アクションを誘発することに期待します」とCSIRO*1の経済学者で、ケープ植物相地域の研究の主筆であるラッセル・ワイズ氏は言います。

これらの研究*2は、今年開催される2つの重要な国際会議(リオ+20、生物多様性条約第11回締約国会議、気候変動枠組条約第18回締約国会議)の全てと関連が高く、会議開催に先立って発表されました。特に、6月に予定されているリオ+20では貧困削減と持続可能な開発への政策的なコミットメント、生物多様性条約締約国会議では資源動員を含めて生物多様性を守るための行動が主要議題です。生物多様性条約と気候変動条約は、双方にメリットをもたらすよう、効率的に推進されなければなりません。

 
ハンナ博士は言います。「世界の指導者たちが、環境劣化の速度を遅くし、将来に向かって貧困問題を改善するための効果的な政策を立案したければ、生物多様性保全は議題のトップに置くべきです。
 

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【編集用注釈】

*1  CSIRについて
南アフリカ科学産業技術研究所(CSIR)は、アフリカで科学技術調査、開発と実施のリーダーシップをとる最も大きな組織の一つ。
アフリカの社会経済成長のための研究と開発を指揮している。詳しくはwww.csir.co.za

*2南アフリカ、マダガスカル、カリフォルニアにおいて実施された今回の研究は、以下の科学者機関によって行われました。(アルファベット順)

Conservation International, Council for Scientific and Industrial Research South Africa, Missouri Botanical Garden, Queen’s University Belfast, South African National Biodiversity Institute, The Nature Conservancy, University of California Berkeley and University Of California Santa Barbara.
Financial support was provided by the U.S. National Science Foundation.
 
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本件に関するお問い合わせ
コンサベーション・インターナショナル・ジャパン 磯部麻子
電話:0369116640 /emaila.isobe@conservation.org
http://www.conservation.or.jp/


コンサベーション・インターナショナル(CI
科学、パートナーシップ、そして世界各地での実践に基づき、次世代に豊かな自然を引き継ぐことのできる持続可能な社会の実現を目指して設立された国際環境NGO。生物多様性ホットスポットを中心に、世界40 カ国以上で約1000名のスタッフが保全活動を展開。1997年旭硝子財団ブループラネット賞受賞。理事に俳優ハリソンフォード、インテル設立者ゴードン・ムーア、作家ジャレド・ダイアモンドなど。