海洋生物種の絶滅に警鐘を発する調査結果でる
 
 

 ワシントン,D.C.-コンサベーション・インターナショナル(Conservation International: CI)に併設される、生物多様性応用自然科学センター(Center for Applied Biodiversity Science: CABS)の調査により、局地的にしか見ることのできない海洋生物種が多様に生息し、それゆえ特に種の絶滅の脅威にさらされやすい海域、「サンゴ礁ホットスポット」の世界上位10海域が初めて明らかにされました。この調査結果は、雑誌「Science」の2月15日号に掲載されています。

 海洋生物種は広大な海域に分布するため、人間活動の影響を受け絶滅する可能性は低いという説をめぐって、長年論争が繰り返されてきました。しかし、今回の調査結果を記した報告書は、その見解に真正面から異議を唱えています。CABSは、サンゴ礁の保全が特に優先的に必要とされる地域を特定するために、この調査を実施しました。

 ヨーク大学教授であり、同報告書の執筆者でもあるカラム・ロバーツ博士は次のように述べています。「生息地の破壊によって生物多様性が次々と失われる中、私たちがすぐに行動を起こさなければ、海洋生物種は絶滅の一途を辿るばかりです。今、生物多様性が最も急速に損なわれている場所に焦点を絞った戦略が緊急に必要とされていますが、今回の研究を通じて、その戦略の構築が可能になったといえるでしょう。」

 外的脅威の程度に応じて分類されたサンゴ礁ホットスポット上位10海域は、次のとおりです。

1. フィリピン
2. ギニア湾(アフリカ)
3. スンダランド(インドネシア)
4. マスカリン諸島南部(インド洋西部)
5. アフリカ東南部
6. インド洋北部
7. 日本南部、台湾および中国南部
8. カーボベルデ諸島(アフリカ最南端)
9. カリブ海西部
10.紅海とアデン湾
 
 これら10ヶ所のホットスポットが地球の海洋面積に占める割合はわずか0.017%にしかすぎません。しかし、これらのホットスポットで見られる、サンゴ礁を住処にしている生物種のうち、34%は限られた場所にしか生息しないということが確認されています。CABSの研究では、固有種が最も多く集中する海域を合計18ヶ所特定し、これらの地域が直面する脅威の危険度に基づいて、ホットスポットの範疇を決定しました。

 「これまで海は、無限の広がり・容量を持つ場所であり、そこに棲息する種の存続に私たちが影響を及ぼすことなどほとんどありえないと考えられてきました。しかし現在、熱帯地域に存在する、種の多様性が最も豊かな浅瀬の海洋生物生息地は、かつてないほど急速な勢いで消滅しつつあるのです。海洋における保護活動の大幅な拡大の必要性が、今回の調査によってより明確に立証されたといえるでしょう。」とCI海洋保全プログラム代表のシルビア・アール博士は語っています。

 10ヶ所のサンゴ礁ホットスポットのうち、8ヶ所は、特に多くの陸生生物種を育み同時に最も差し迫った危機に瀕する、世界の「陸域ホットスポット」につながっています。

 CI海洋保全プログラム部長であり、報告書の共著者であるティム・ワーナー博士は次のように述べています。「サンゴ礁ホットスポットと陸域ホットスポットが驚くほど多く重複しているという事実は、私たちが適切な場所で活動しているということの何よりの証拠です。例えば、私たちは陸生のトカゲ(リザード)と、トカゲによく似た海生のリザードフィッシュを、同時に保護できることになるのです。陸域と海域を統合した保全戦略を実施することにより、これらの地域における環境保全への投資は、大きな成果をもたらすことになるでしょう。」

 陸域ホットスポットにおける生物の生息地を破壊する活動は、サンゴ礁の破壊にもつながります。実際に世界のサンゴ礁の約58%は、人的要因による脅威を受けていると報告されています。

 サンゴ礁破壊の原因は、過度の漁業や気候変動だけではありません。農業、森林伐採、開発事業などによってもたらされる土壌堆積や栄養化物質、その他の公害物質が海へ流入するという状況もまた、沿岸生態系に被害を及ぼす主要な原因と考えられています。

 同報告書によると、温暖化によってすでに世界のサンゴ礁の4分の1が破壊されているか、もしくはその生育環境が大幅に悪化しています。これらのホットスポットに生息するサンゴ礁が破壊されることにより、世界の最貧層が重要な栄養源を失うことになります。また多くの場合、彼らの生活基盤そのものが脅かされることになるでしょう。例えばフィリピンでは、人々は動物性たんぱく質の約70%を魚介類から摂取しているのです。

 今回の調査の結果、サンゴ礁に棲む魚類やサンゴ、カタツムリ類、ウミザリガニ類、また健全なサンゴ礁環境を必要とする4種の動物群など、合計3,235の生物種の地理的分布が地図上にまとめられました。

 ロバート博士によると、漁業を禁止した海洋保護区の設立が、今緊急に必要とされる取り組みの一つです。現在、世界の陸地の約6%が国立公園に指定されています。しかし海に関しては、あらゆる種類の保護地区を合計しても総面積は0.5%にも満たないのです。

 また同博士によると、海洋の環境保全は、経済的観点から見ても有益であることが立証されています。海洋保護区の保全は、適切に設計しさえすれば経済的利益が得られるのです。海洋保護区では、保護されていない海域よりも魚が長生きし、またより大きく育ち、周辺漁業の振興をもたらします。例えば、セントルシア近郊のカリブ海に浮かぶ島々の周辺に海洋保護区のネットワークを構築したところ、5年後には漁獲量がおよそ2倍に増大しました。

 陸域生物多様性ホットスポットとの関連に加え、報告書は、熱帯サンゴ礁生態系にはいわゆる「原生自然」地域も含まれていると記しています。原生自然地域とは、人的影響の程度が低く、多様で豊かな生物種が見られ、また環境悪化が著しい地域と比べると、岩礁の過剰開発の影響を受けやすいサメ類などの種がまだ豊富に生息している地域を指します。これらの地域の例としては、陸域の熱帯原生自然地域であり、サンゴ礁もほとんど原生の状態で存在しているニューギニア島などが挙げられます。CABSの調査の提言にあるように、今後、サンゴ礁の「ホットスポット」同様、これらの「原生自然」地域にも環境保全活動を適用することが期待されます。

 イギリス・ヨーク大学上級講師、ロバーツ氏は今調査事業にあたり、CABSの一員としてご助力いただきました。ティモシー・B・ワーナー、ジェラルド・R・アレン、クリスティーナ・G・ミッターマイヤー、カーリー・ヴァイニー、以上の科学者4名がCABS研究員として同報告書の執筆に携わりました。その他の共著者は、ヨーク大学のコリン・J・マクレーン氏、Australian Institute of Marine Scienceのジョン・E・N・ベロン氏、ヨーク大学のジュリー・P・ホーキンス氏、Ocean Voice Internationalに所属されていましたがお亡くなりになったドン・E・マカリスター氏、Eastern Ontario Biodiversity Museumのフレデリック・W・シューラー氏、UNEP-World Conservation Monitoring Centerのマーク・スパルディング氏、Western Australian Museumのフレッド・ウェルズ氏、以上の方々です。