気候変動と生物多様性
© Michael & Patricia Fogden/Minden Pictures
 
 

いまや地球の人口は70億人を突破し、人間の活動により大気には大量の二酸化炭素が排出されています。そのため、現在、大気中に占める温室効果ガスの割合が非常に高く、将来にわたり温室効果ガス濃度が上昇することが問題視されています。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第四次評価報告書(2007)引き続き化石燃料に依存しつつ、高い経済成長を目指す社会が続くならば、今世紀末には、平均気温の上昇は、4.0℃(2.4~6.4℃)に達する」と発表しています。この気候変動は自然界に様々な影響を与えると思われます。例えば、生物多様性の減少や生息環境の変化・森林破壊・砂漠化・土壌劣化などがその例として挙げられます。

逆に生物多様性を減少させる原因が気候変動の1つの要因となっていることも事実です。たとえば、森林には炭素固定という二酸化炭素を樹木や有機土壌などに形を変えて蓄積する働きがあります。そのため、森林が伐採されると、蓄積されていた二酸化炭素が大気中に大量に放出されることになります。例えば、熱帯林の減少によりオラウータンの生息地が失われていることが指摘されていますが、熱帯林の減少による温室効果ガスの排出量は、全世界の排出量の5分の1を占め、全世界の自動車、トラック、船舶を含む運輸部門の排出量を上回るほどです(図1)。熱帯林だけでなく、泥炭地や珊瑚礁なども炭素固定に貢献していると考えられており、それらもまた保全していくことが重要です。 

  図1 セクター別排出量比較(2004年)出典:IPCC 第4次評価報告書第3作業部会報告書)

 

生物多様性の減少と気候変動の深刻化は、どちらも森林減少および劣化から起こる悪影響へのプロセスなのです(図2)。つまり、気候変動対策の1つとして、生物多様性の保全に取り組むことは非常に有効な手段です。気候変動枠組条約で検討が進んでいるREDD+は、温室効果ガスの排出削減の需要を森林保全への資金提供に結び付ける仕組みでもあります。

  図2 気候変動と生物多様性の関係

 

これまでの森林保全では、時に政府が一方的に保護地域を指定するなど、森林資源を頼りに生活していた人々がその地域に居住できなくなったり、先住民族の権利の尊重を怠るなどの問題が起こり、「保全」と「生活」の間に軋轢が生じるケースも報告されていました。しかし、これらの問題に対する正しい対策が講じられれば、従来の取組みでは効果的に実施されなかった森林管理方法を確立させる可能性も出てきます。

また、生物多様性は、気候変動などの変化に対応するための「適応力」としてさらに重要です。多様な要素から構成される生態系は、気候変動などの環境の変化からの回復力や適応力が強いと考えられています。また、世界中で、約20億人が森林の生態系サービスに直接依存して生活しているため、森林を守ることは人々の生活の場を守り、長期的な視点から気候変動などの変化に対応することにつながるのです。

  図3 森林資源における負のスパイラル

 

これまでは、住民の生活基盤の悪化が森林減少を拡大させ、二酸化炭素の排出をもたらし、生物多様性の減少と気候変動問題の更なる悪化を引き起こしながら、さらに生活基盤が劣化するという負のスパイラル(図3)が生じていました。逆に、住民の生活基盤を安定することができれば、生物多様性の保全や気候変動の緩和・適応を生み出す正のスパイラル(図4)を実現するチャンスになるといえます。現在の国際議論の中で、気候変動対策として森林をとらえる動きが、正のスパイラスに貢献すると期待されています。

 

  図4 森林資源における正のスパイラル