フィリピン・キリノ州、生態系サービスによる気候変動の影響緩和への取組み(パート1)~CI本部ブログより

 



フィリピン・キリノ州の流域では、州政府担当者と
CIのパートナーが共同で、
森林破壊対策に取り組んでいます。(
© CI / リン・タン撮影)


史上最大級の
台風30号(ハイエン)11月、フィリピンに上陸し、死者6000人以上、行方不明者約1800人、住宅倒壊被害者数百万人という壊滅的な爪痕を残しました。地球に生きる私たちは自然災害を避けて通ることはできません。さらに専門家は、たび重なる気候変動の影響による異常気象は今後ますます頻発すると予測しています。

マングローブ林、サンゴ礁、森林などの健全な生態系を保全し、再生することは、天災による被害の軽減につながるという研究結果がでています。今週は、コンサベーション・インターナショナル(
CI)のリン・タンが、フィリピンでCIが推進している保全・再生活動をご紹介します。(注:この記事は台風30号上陸前に書かれたものですが、幸いにもこの地域は壊滅的被害を逃れることができました。)

フィリピンには初めて訪れました。首都マニラから車で北上すると、何マイルにもわたって森林伐採地が広がっていました。フィリピンは、地球上の種の大多数が生息する世界
17カ国の「生物多様性」国の一つと聞いていましたが、延々8時間も荒廃地とプランテーション農場が続く中をドライブした後では、この国に原生林が少しでも残っているのか、疑問に思い始めました。

情報は得ていたはずでした。事前に読んだガイドブックには、この国の森林破壊の割合が世界のトップクラスであると書かれていました。実際、フィリピンは、
世界の最も危機に瀕する森林ホットスポットのトップ10の第4位に入っています。また、低地森林の大部分が開拓され、残された原生林はわずか7%にすぎません。写真は森林が伐採された丘を撮影したもので、貴重な流域の所々に焼畑があります。




                                  フィリピン・キリノ州の焼畑農園と森林伐採地。
               この川の水が下流にある数百の農村の生活を支えます。(
©CI リン・タン撮影)

翌朝、キリノ州保護景観区周辺にある
CIの環境保全の現場に向かいました。ここは、フィリピン北部のルソン島に伸びるシエラ・マドレ山脈の丘陵地帯に位置し、手つかずの熱帯雨林が最も広く残る場所でもあります。

シエラ・マ
ドレの森林は豊富な野生生物種が生息し、その中にはフィリピンワシやフィリピンオオコウモリなど、フィリピン固有の種が多く含まれます。この森はまた、カガヤン・バレー地方を流れるカガヤン川の水源地でもあります。カガヤン川は、キリノ州ほか複数の州を流れ、何百もの集落の生命線となる大規模な灌漑システムを支えています

他の地域と同様、ここでも
森林破壊の最大の理由は「焼畑」農業でした。きっかけは移住者と人口の増加ですが、土地保有権の所在が曖昧になると、環境を重視した持続可能な生活よりも、目先の利益を最優先し、焼畑農業に拍車がかかったのです。


地域住民の暮らしに農業は不可欠ですが、農地の過度な拡大と森林破壊は、水質浄化、洪水防止、気候変動による悪影響の緩和など、健全な森林が持つ生態系の機能を低下させます。近年、キリノ州をはじめとするフィリピン東部沿岸地域では、勢力の強い台風が頻発し、住民の安全と暮らしを脅かしています。

CI
の現場を訪れる前に、キリノ州役場に立ち寄り、開発戦略推進担当管理官のエリザベス・ニコラス氏にインタビューを行いました。今回のフィリピン訪問では、指導的立場にある女性に多く出会いましたが、ニコラス氏もその一人です。

ニコラス氏は、キリノ州の河川流域の広い範囲で環境の悪化が進んでいること、そして、森林破壊をくい止めるには、その実行者である地元農家の協力が不可欠であり、そのことが最大の課題だと述べています。
農家の目的は環境破壊ではありません。他に生計を立てる手段を知らず、生活を変えるための知識、教育、機会にも恵まれないためやむを得ずというのが現状です。彼らには、材木や農産物、その他森林から収奪することのない別の生計手段を提示する必要があります。

この地域におけるCIのプロジェクトの焦点は、農家の生活様式を変えることに置かれています。州政府および現地の非政府組織(NGO)と共同で立ち上げたキリノ州森林カーボン・プロジェクトでは、農家と協働で森林の再生と保全に取り組んでいます。自分の土地で焼き畑農業の代わりに植林を行う農家には職業訓練の機会と補助金が提供されます

このプロジェクトでは、農家が長期的に土地を保有するためのサポートも行います。農家と保有区画は、河川の流域や原生林との位置関係に基づく戦略的な基準で選定されます。

このプロジェクトによって、これまでに
177ヘクタール(437エーカー)の農地が森林として再生しました。参加した95軒の農家も、今では気候変動や、炭素吸収源としての森林の役割についてしっかりと理解しています。

   CIのキリノ州森林再生プログラムに参加する
   農家の人々。(
© CI リン・タン撮影)

「森林再生計画」に参加する農家は、新苗の植付けから約20年間、その苗が成木となるまで世話を続ける責任を負います。森林再生区画は原生林の周辺に位置することが多いため、それが保護壁となって森林破壊の拡大を防ぐという意図があるのです。

キリノ州でプロジェクト参加を切望する農家が増加している
という事実がプロジェクト成功の最大の証と言えるでしょう。しかし、現時点では資金が不足しているため、プロジェクトの対象面積を拡大することができません。

キリノ州森林カーボン・プロジェクトの成功と信頼性の高さを示すもう一つの証は、このプロジェクトがアジアで初めて、単独で
ベリファイド・カーボン・スタンダード(VCS)の有効化審査を通過し、気候・地域社会・生物多様性プロジェクト設計スタンダード (CCBスタンダード)によるゴールド認証も取得したという点です。森林カーボン・プロジェクトが両スタンダードの認証を得たことは、プロジェクトによって生み出されるカーボンクレジットが目標を達成していること、申告した追加利益についても結果を出していることの証なのです。

このプロジェクトが他と異なるのは、日本の
NGOであるモア・トゥリーズが主な資金援助を行っているという点です。モア・トゥリーズは、植林や森林破壊対策を行う活動の場が地球上のどこであっても、世界的な排ガス削減につながり、ひいては地球温暖化を抑制できるという理念のもとに、地球温暖化の防止と生物多様性の保全を主要目的として日本の個人や企業から資金誘致を行っています。地球規模の気候変動を止めるため、遠く離れた国のプロジェクトに貢献したいと考える人がいるという事実に、私は深い感銘を受けました。

京都議定書の協議は遅々として進まず、政策決定者は基本的な議論を続けているにすぎません。しかし、緊急の気候変動対策は、現場レベルで具体的なに移すことが必要であり、そのことを理解している人がいるということが、私たちの活動の励みとなっているのです。
議論するだけで問題は解決しません。早急な対策が求められています。

リン・タンは、
CIアジア太平洋地域フィールド・ディビジョンのパートナーシップ・開発担当シニアマネージャーです。この記事の続きはパート2をご覧ください。​​

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翻訳協力: JMT Japan / Joe Ogata)