Wildflowers, Iceland  

ヨーロッパ・中央アジア

生物多様性ホットスポット

 

コーカサス

© Olivier Langrand

砂漠、サバンナ、乾燥性の高木林によって構成されるコーカサスのホットスポットには、非常に多くの固有の植物種が生育しています。

その起伏の激しい地形は、絶滅の危惧種であるヤマヤギの生息地でもあります。

近年、その地方の政治・経済危機のために、不法な狩猟や植物採集が行われる他、燃料用の薪にする森の伐採が増加し、その地域固有の生物多様性を脅かしています。このため、手付かずの生息地の大半は、山々の高所地域に残るのみとなっています。

概説

コーカサスのホットスポットは、グルジア、アルメニアとアゼルバイジャンの国、ロシア連邦の北コーカサス地方(ダゲスタン共和国、チェチェン共和国、イングーシ共和国、北オセチア共和国、カバルダ・バルカル共和国、カルチャイ・チェルケス共和国、アディゲ共和国)、トルコの北東部、北西イランの一部になり、全体で532,658kmにわたります。このホットスポットは南側では、イランーアナトリア高原のホットスポットにつながっています。

コーカサスの地形は、大コーカサス山脈(最高峰は5642mのアルボルズ山)、小コーカサス山脈(4000mまで)、南コーカサス高原(小アジア、アルメニア、イラン高原を含む)、大コーカサス山脈と小コーカサス山脈の間にあるトランスコーカサスの低地帯からなっています。2,000以上の氷河が、大コーカサス山脈の1,450平方キロメートルをカバーしています。

北部にあるホットスポットの3つ目が広大な北コーカサス大平原で、その東側部分は海抜ゼロメートル以下にあります。この地域は、年間雨量が150ミリしかないカスピ海沿岸のホットスポットから、4,000ミリも降る、黒海に沿った沿岸の山々まで、気象条件が非常に多様となっています。

コーカサスの植生もまた、非常に多様です。ホットスポットの北部では、西の草原地帯が序々に半砂漠の生態系に移り変わり、東に行くと完全に砂漠になります。中央トランスコーカサスの低地帯では、沼地の森林や、草原、乾燥した森地帯はカスピ海に沿って半砂漠から砂漠に変化していきます。ホットスポット全体に、広葉樹の森林、山岳の針葉樹林、低木林が散在しています。

また、その地域には、2つの第三紀植物群の退避地(黒海の集水地域であるコルキス、カスピ海沿岸のコーカサス南東端にあるヒルカニアン)があります。

イラン・アナトリア高原

© Olivier Langrand

イラン・アナトリア高原のホットスポットは、地中海沿岸地域と西アジアの乾燥した高原帯を隔てる自然の境界線であり、山々と盆地からなる生態系が、この地域の固有種の主な生息地となっています。およそ400種の植物が、二つの異なった植物相が交差する「アナトリア対角線」に沿って生息しています。トルコにある1200もの固有種の多く(4種の固有絶滅危惧種であるクサリヘビ含む)は、そのすぐ東側あるいは西側にのみ生息しています。

概説

イラン・アナトリア高原のホットスポットを形成している、地形的に複雑で、広範囲な山系、 閉鎖型盆地といった要素が、生態系と地中海沿岸地域の先住民族の文化、西アジアの乾燥した高原帯を隔てる自然の境界線を形成しています。

何世紀もの間、シルクロードは、イランとアナトリア高原の2つの地域をつなげるように、このホットスポットの東西を横切ってきました。ホットスポットの総面積は89万9773のkm2で、 トルコ中央部、東部の大部分、南グルジアの一部、 アゼルバイジャンのNahçevan 州、アルメニアの大部分、イラク北東部、イラン北部、西部、およびトルクメニスタンのコペットダグ山脈(Kopet Dagh Range)を含んでいます。

イランーアナトリア高原の高度は、 コペットダグ(Kopet Dagh)やザグロス山脈の西部の山麓、およそ標高300mの低いところから、トルコの休火山、アララト山(5,165m)とイランのダマバンド山(5,671m)など、5,000m以上に至るまで、また、アナトリア、アルメニア、およびイラン西部の高原も800m~2,000mまでと幅広いです。 歴史的には、山々は東地中海と西アジアの間で、退避地と回廊地帯の役目を果たしてきたため、その結果として、地域全体には、地域固有性が数多く、見られます。

気候は大陸性で、夏は暑く、冬は非常に寒くなります。年間降雨量は100mm~1000mmと大変バラつきがありますが、ほとんどは、春と冬に降っています。このホットスポットの主な植生は、西と南(アナトリア高原とザグロス山脈)に、オーク(Quercus spp.)が占める落葉樹林、 東(アルボルズ山脈とコペットダグの南側斜面)に、ジュニパー(Juniperus spp.)の森林が生い茂る、山間の森林ステップです。亜高山、高山帯の植生は樹木限界線より上の山頂までをカバーし、とげの生えたクッション性の構成物がその亜高山地域で見られ、トルコのCilo and Hakkâri 山脈の高山地帯では、永久凍土も確認できます。

地中海沿岸

© Olivier Langrand

地中海沿岸の植物相は非常に印象的です。固有の 維管束植物種は22,500種で、ヨーロッパの他の地域の4倍以上にものぼり、固有の爬虫類も多く生息しています。しかしながら、 ヨーロッパ人のバカンス地として人気のこの地では、リゾート開発とインフラ開発の影響により、絶滅の危機に瀕する生物種の個体数はますます減少しており、その生息地は断片化・孤立化しています。地中海モンクアザラシや、バーバーリーエイプ、スペインオオヤマネコが、現在絶滅危惧種に指定されています。

概説

世界最大の地中海性気候である、地中海沿岸は西のポルトガルから東はヨルダン、北イタリアから南はモロッコまで広がっています。 地中海周辺のホットスポットの総面積は208万5292km2で、スペイン、フランス、バルカン国、ギリシア、トルコ、シリア、レバノン、イスラエル、エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア他、約5,000もの周辺の島々をカバーしています。また、ヨーロッパ・アフリカ大陸の西側のカナリア諸島のマカロネシアン島、マデイラ諸島、セルヴァージェンス島、アゾレス諸島、およびカボベルデも、ホットスポットに含まれます。

ここは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸 が交差する場所で、生物多様性の高さと壮観な風景が特徴です。 このエリアは4,500m級の山々や半島、世界一大きな列島群などを誇っています。地中海沿岸地域の気候は冷涼で、冬は湿度が高く、夏は暑くて乾燥し、降雨量は少なければ100mm、多いと3,000mmに達します。

ホットスポットの大部分は過去、常緑のオーク林、落葉針葉樹林が覆われていましたが、8,000年の間にヒトが定住したことにより、環境が変化し、植物は独特の進化をとげてきました。
今日、最も広がっている植生は、フランス語でマキー、スペイン語でマトラルと呼ばれる硬葉樹林あるいは、低木の灌木地帯で、ビャクシン属、ミルツス属、オリーブ属、フィリレア属、カイノキ属、コナラ属(Juniperus, Myrtus, Olea, Phillyrea, Pistacia, and Quercus)を含んでいます。

これらの植物相は、シャパラル(カリフォルニアの暑く乾燥した夏と冷たく湿った冬に対応した、常緑の低木から成る生物群系)やチリのマトラル(潅木地)で見られる特徴に似ています。また、200万年にその地域を覆っていた古代の森林に生息していた残存種が、現在の地中海の植生(アルブツス属Arbutus、ギョリュウモドキ属Calluna、イナゴマメ属Ceratonia、チャボトウジュロ属Chamaerops、カモメ類Larus)を織り成す重要な構成要素の一部を織り成しています。

頻繁な火災により、植生の多様性は薄れ、ケルメスオーク(Quercus coccifera)、ゴジアオイ(Cistus spp.)トゲワレモコウ(Sarcopoterium spinosum)ら、火災の後にすぐに発芽や萌芽を促し、急速に植生を回復させる植物種にとって代わっています。

また、マキー含め、香り豊かで、柔らかい葉を持つローズマリー(Rosmarinus)、サルビア(Salvia)、タイム(Thymus)など潅木地帯は、この半乾燥した、低地の沿岸地域にしっかりと根付いています。

中央アジア山岳地帯

© Olivier Langrand

アジアを代表する2つの主要山脈が走る中央アジア山岳地帯は、古代ペルシャ人に『世界の屋根』として知られていました。このホットスポットの生態系は、氷河から砂漠まで変化に富んでおり、中でも破壊の聞きに瀕しているクルミ種の森は周辺地域に生息する様々な果実樹種の原種を多く含んでおり、遺伝的多様性の宝庫といえます。

また、絶滅危機に瀕しているアルガリ(中央アジアの高山に生息する野ヒツジ)を含め、非常に多様な有蹄動物の生息地もあります。

概説

中央アジア山岳地帯はアジアを代表する2つの主要な山岳地帯、パミール高原と天山山脈からなっています。このホットスポットの86万km2には、政治上は、カザフスタン南部と、キルギスとタジキスタンのほぼ全土、ウズベキスタンの東部、中国の西部、アフガニスタン北東部、およびトルクメニスタンの一部を含んでいます。また、標高6,500m以上の山々や、砂漠盆地もあり、そのもっとも大きいものがフェルガナ峡谷です。ここには、非常に多くの固有植物種が生息していますが、水ストレスと内戦により、固有の生物多様性が、深刻な脅威にさらされています。

東パミール、西パミール、パミール・アライ山脈を含むパミール高原地帯は、「世界の屋根」として古代ペルシア人に知られていました。東パミールは高度変化のあまりない、いわば高原のような感じですが、西パミールはうって変わって、鋭く尖った尾根に、険しい勾配、深い谷と断崖絶壁の峡谷が特徴です。

このホットスポットの最高峰はコングール山です。(最高地点は中国領パミール高原の7,719mで、その他の4つの山頂も7,000m級です。) 長さ300km、幅150kmのフェルガナ谷は、パミール高原と天山山脈を分け、東西2500kmにも渡る、複雑な山並みを成しています。また、2万箇所以上の氷河を擁し、およそ、18,000 km2を覆っています。

中央アジアの気候は基本的に、乾燥しています。降水量は、主に春と冬に集中し、ホットスポットの西のGissar 山脈の1,500mm以上から東パミール高原の100ミリmm未満まで様々です。

ホットスポットの主な植生タイプは、砂漠、半砂漠地帯、そして大草原地帯で、下部斜面、丘陵地帯、周辺の山脈や主な盆地帯などで見られます。ところどころに見られる水系森林はイリ渓谷とその他数箇所に残っています。

より標高が高い場所では、大草原群は様々な種類の草やハーブ類に占められる一方、比較的、低い場所の草原地帯では、潅木群落が広がっています。トウヒ林はこのホットスポットで唯一の針葉樹林で、天山山脈の北側斜面に生息し、ジュニパーあるいはarchaのような疎林が900m~2800mの間に広がっています。高山植物が生息する草原は山の西側、2000m~4000の間、あるいはそれ以上の高所で確認できます。標高が最も高く、最も冷涼な場所になると、植生や多様性が、団塊植物や雪田植生、ツンドラなどに限られます。