気候変動交渉への政策提言

スペイン・マドリード 2019年12月2日~13日

 

2019年12月17日

COP25の交渉の結果を受け、CIは自然を活用した気候変動対策(Natural climate solutions :NCS)を含めた更なる気候変動対策を推進するために声明を発表しました。

今年のCOP25は、スウェーデンの高校生グレタ・トゥンべりさんが世界的に脚光を浴びたこともあって、日本でも例年よりも会議中からテレビなどで取り上げられる機会が多かったように思います。

今回のCOPでは、市場メカニズムを含めた、多国間での排出削減協働・連携に向けた具体的な実施ルール(いわゆるパリ協定第6条)の策定と合意が期待されていました。これは、締約国各国にとってフェアなルールに則って、削減量(炭素クレジット)のダブルカウンティングを防止し、より正確に国際社会全体での排出削減量を把握・記録することで、排出削減、そして持続可能な開発を進めるための資金の創出と移転のために不可欠なルール作りです。特に炭素蓄積量(森林)分布が均等で無い中で、自然を活用した気候変動対策(nature-based climate solutions:NCS)を活用してパリ協定第5条(森林の役割と重要性)を遂行するためには、極めて重要な役割を果たす実施ルールです。

COP最終日には、もう少しでルールに合意出来るというところまで行ったものの、土壇場で一部の締約国が、過去の排出削減努力(過去の炭素クレジット)を算定に含めること、より簡易で曖昧な算定方法を導入することなどを主張したため、あいにく合意に至らず、非常に残念な交渉結果に終わりました。しかし、COPの外では、有志の国や機関により、確実で実効性ある排出削減を担保、促進させるような多国間協働の方策についての協議も始まっています。CIもこのような協議に参加するとともに、REDD+プロジェクトを開発・実証することで、貢献を続けています。

いわゆる「6条議題」以外で、今回のCOPで注目の的となったのは、海です。元々COPをホストする予定で、マドリッドでのCOPの議長国を務めたチリのシュミット環境大臣は、閣僚級ハイレベル会合で、UNFCCCの元では、これまで海洋が気候変動緩和に果たす役割(海は、CO2の最大の吸収源であり、また熱の吸収源でもあります。また、健全な海洋環境の保全は、気候変動へコミュニティが適応する上で極めて重要です)について、あまりにも議論がされてこなかったと述べ、公海を含めた早急な海洋保全対策を訴えました。また、島嶼国を中心に、COPの枠組みの中に海洋を協議するトラックを常設することも提議されました。一方、公式な交渉の袖(いわゆるサイドイベント)では、CO2吸収源としてのマングローブ林や海藻・海藻生態系(いわゆるブルーカーボン)を含めたNCSについての活発な議論が多く見られ、今後の気候変動対策の文脈での自然生態系の保全の促進に期待が持たれます。

平均気温の上昇幅を産業革命前から2℃未満(可能な限り1.5℃未満)に抑えるというパリ協定の目標を実現させるために人類が明確な行動を起こすために残された時間は、あと僅かです。CIは、実効性ある6条実施ルールが締約国によって早急に合意されることを強く望みます。

 

CIでは、1.5℃目標を達成するために必要なCO2の排出を削減し、また進行する気候変動による物理的な影響を緩和し人々やコミュニティが適応していく上で、自然の果たし得る役割は非常に大きいと考えています。具体的には、自然を活用した気候変動対策(natural climate solutions: NCS)への投資を増やすことで、必要な排出削減量の約3割を、より財政効率的に賄えると考えています。


CIの提案


CIは、COP25において、以下のポイントがパリ協定の実施ルールに組み込まれるよう、提言します;

  • パリ協定達成に必要な資金を市場メカニズムを通じて効率的に動員
  • 小規模事業者、女性、先住民族やコミュニティを含む、全てのステークホルダーが気候対策への参画・参加できるようにする 
  • 小規模農家の参画による食糧安保の担保と森林保護の促進
  • REDD+(森林破壊・劣化からの排出の削減)、持続可能な農業、生態系ベースの適応策(EbA)、沿岸部の炭素管理などのNCSを国別自主的約束(NDC)へ組み入れること
  • NDCに含まれない温室効果ガスや産業・社会セクターからの排出がしっかりモニタリング・報告・検証される体制・ルールをつくること
  • NDCに含まれない国際航空航路からの排出について、排出(削減)量の重複を排除しつつ、政府・非政府機関間の移転(取引)を位置付けること
  • 排出(削減)量の主体間の移転(取引)において、特に小規模事業者や先住民族などの全ての主体に参加の機会が開かれること

COP25へ向けたポジションペーパー(英語)
条約への具体的な修正提案(英語)

 

国連でのスピーチが注目を集める、16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんと作家のジョージ・モンビオット氏が出演する本映像は、モンビオット氏が仕掛け人である、自然による気候変動対策への投資を推進するキャンペーン「Nature Now」の一環として制作されました。 映像は、コンサベーション・インターナショナルや国際連合食糧と土地利用分野NGO(Food and Land Use Coalition:FOLU)、およびGower Streetなど、複数の国際NGOの協力により制作されています。 気候変動の問題は危機的状況であるにも関わらず、 気候を安定させるための森林がどんどん失われています。 今こそ、自然を守り回復させることにすべての力を集めなければ。 シェア大歓迎です!