フィリピン・キリノ州、生態系サービスによる気候変動の影響緩和への取組み(パート2)~CI本部ブログより
 
 

このブログ記​​事は、台風30号(ハイエン)のような天災が人間社会に与える影響を軽減するために、マングローブ、サンゴ礁、森林などの生態系の再生と保全がどのような役割を果たしているのかについて書かれた記事の後半部分です。パート1も合わせてご覧ください。(注: このブログは台風30号上陸前に書かれたものですが、幸いなことに、この地域は壊滅的被害を逃れることができました。)

 
        フィリピン・シロナイでマングローブの苗を植える筆者。別の島(サマル島)では、
     植林されたマングローブが、
台風
30号による被害を小規模に抑えたと考えられます。
                   (© CI / クリスティン・プルコプ撮影)

​2008年、コンサベーション・インターナショナル(CI)とフィリピンは、ベルデ島水路において、 気候変動に対する脆弱性のアセスメント を実施しました。この水路は、漁場、観光地、島間航路として重要なうえ、豊富な海洋生物の生息地です。そして、沿岸部のシロナイ村は、高潮と海面上昇の被害を最も受けやすい地域の一つであることが確認されたのです

この村を訪問し、
CIの現地での仕事について学ぶというオファーを受けた時、私はこのチャンスに飛びつきました。

村の中心となる建物に到着すると、
50人ほどの地域住民と一緒に魚のフライと野菜というシンプルな昼食をとり、歩いてすぐのマングローブ生育地へと向かいました。

この地域にはマングローブの豊かな森が多く残されています。しかし海に近づくに連れて、
マングローブの数は徐々に減り、最後には何もない干潟にたどり着きました。かつての森を再生するためにマングローブを植林するのは、この場所です。住民と共に、私は生まれて初めて植栽を体験しました。マングローブの苗です。そっと苗を植えた時の泥の感触に、幸せな気分を感じたのは予想外のことでした。


   
シロナイ村の子供たち。村が豊かになれば、子供たちの利益につながります。(©CI リン・タン撮影)

マングローブの植林活動は、生態系機能を利用した適応策(EbA)を推進することで気候変動を止めようとする、広大な取組みのほんの一部にすぎません。EbAは比較的新しい概念であり、自然生態系の保全と再生を通じて、気候変動によって人類にもたらされる悪影響を軽減していくこと、と定義付けられています。自然の生態系を活かした適応策は、気候変動の緩和だけでなく、代替生計手段の開拓などの多面的な利益をもたらすため、人工物による適応策に比べて費用対効果が高いことが多いのです。

マングローブやその他の自然の防御壁は、天災に対する沿岸地域の耐性を高める重要な要素であることが実証されるようになってきました。

実際、フィリピンのサマル島においては、植林したマングローブが、この地域の台風
30号による被害を最小限に抑える役割を果たしたと考えられています。 しかし、フィリピンに原生していた50万ヘクタール(120万エーカー以上)のマングローブ林は、すでにその約70パーセントが失われ、大部分が魚・エビ養殖池や農地、塩田、居住地へ替わりました。

現在、シロナイ村周辺では
25ヘクタール(62エーカー)のマングローブ林が再生され、2014年までには最終目標の40ヘクタール(約100エーカー)達成の見込みです。CIが始めた植林活動は複数の市民団体や地方自治体に広がり、隣接地域でもマングローブの植林が始まっています。

このプロジェクトは、シロナイ村に多面的な利益をもたらします。シロナイ・プロジェクトを社会経済学および収入多角化の面から支えるコンサルタントのアラン・モウリオン氏は、「まず私たちは、マングローブ林の再生活動に対する資金援助とインセンティブを導入することで、この村に環境再建の経済的手段を提供しました。それだけではなく、エコツーリズムや加工食品販売などの代替収入源も地域住民と共同で開拓しています。シロナイ・プロジェクトは、
環境劣化と貧困という極めて密接に関連する一対の問題にうまく対処している、と自信を持って言うことができます」と述べています。

もう一つ、シロナイ村の住民が組織した、
CIのコミュニティ・パートナーである「Samasamang Nagkakaisang Pamayanan ng Silonay」が、マングローブ保護地区を保全するため、エコツーリズムと食品加工を行う社会的企業に転身するという成果もありました。 


             シロナイ村のマングローブ林を巡る「エコツアー」の開始にあたり、
              CI2艇のカヤックを寄贈しました。(© CIリン・タン撮影)

CI
は州および市の協力を得て、簿記、会計監査、ビジネス・プランニング、ツアーガイド、食品加工とパッケージなど、様々なトレーニングを通じて地元住民のスキルアップを支援しています。観光業などで起業して収入が増えれば、その分、生計のためにマングローブを伐採する必要はなくなるのです。

私はモウリオン氏に、プロジェクトの導入に抵抗はなかったのか尋ねました。村の住民は比較的あっさり、
CIとそのプロジェクトを受け入れたということです。つまり住民たちは、プログラムのメリットも、自身の生活を維持・改善するための新たな取組みが必要であることも理解していたのです。シロナイ村が対処すべき脅威は気候変動だけではありません。この村の暮らしを支えてきた漁業収入は、濫獲と商用漁船の入漁が増えたことで、減少の一途をたどっています。

村の老人は「かつてのシロナイ村は、一日
10トンもの水揚げ量を誇る豊かな漁村でした」と教えてくれました。豊かな環境が与えてくれた繁栄がすっかり失われてしまったことは、粗末な小屋と老朽化した建物を見ればよくわかります。

今日まで、漁業に替わる様々な生計手段が作りだされてきました。カヤックとパドルボートによるマングローブ林ツアー、マングローブ林の再生を希望する町へ苗の販売、特産品や、手作りフルーツ・チップと野菜チップの詰め合わせの販売などです。

なかでも最大の呼び物はマングローブ・ボードウォークです。マングローブ林の奥にある聖域を巡りながら、鳥やコウモリ、両生類、爬虫類など、様々な野生生物を見て、聞いて、楽しむことができます。さらに
CIは、生物多様性と生態系サービスについて、観光客と住民双方の意識と理解を深めるため、シロナイの野生生物のドキュメンタリーを制作しました。

シロナイ村でマングローブを植えたり、住民と親しく交流したことは、今も懐かしく思い出されます。私が訪問したとき、村では新しいカヤックを調達したところでしたが、エコツーリズムの理想的な目的地となるには、まだインフラ整備やマーケティングが不十分でした。
何年か後にこの地を訪れる時には、この村が観光地として賑わっていると信じ、自分の植えたマングローブに会いに行きたいと思っています。 

リン・タンは、
CIアジア太平洋地域フィールド・ディビジョンのパートナーシップ・開発担当シニアマネージャーを務めています。この記事に貴重な知識を提供してくれたアラン・モウリオン氏に感謝の意を表明します。シロナイ・プロジェクトは、CIがフィリピン、南アフリカ、ブラジルの3カ国で実施しているEbAの試験的プロジェクトの一環です。

CI本部ブログページ(英語)は
こちらから

(翻訳協力:
TMJ Japan / Joe Ogata)

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